水文観測
観測の目的と体系
地球上での水の循環に関係する現象には、蒸発散、降水、浸透、流出、等の現象が含まれます。このような各素過程での水の存在量と動態の計測を水文観測と呼びます。水文観測とは、単に自然界における水の状態を計測するということだけではなく、現象そのものを観察するというニュアンスを含んでいます。
水文の諸現象は、それぞれ特徴的な時間・空間スケールと立体的な構造をも っています。このため、現象の時間・空間スケールに合った観測・データ処理等をシステムとして構築する必要があります。すなわち、目的と対象に応じた観測体制と観測方法が重要となります。
地球上では水は不均等に分布し、かつ時間的な変動が激しい地域が多いです。水は人間社会に不可欠な資源ですが、このような変動をもつ資源を適切に利用するには、水の存在量と移動量を的確に把握することが重要です。したがって、水文観測は国土資源の適切な調査・管理のための業務として、世界各国で実施されてきました。
わが国では特にその地理的環境と地形条件から、水利用が主に表流水に依存していること、台風や梅雨による豪雨災害が多いこと等のため、雨量や河川の水位・流量の観測を行う観測網の設置が進められ、世界でも最も密度の高い観測網が整備されています。このような観測体制を整備し、観測を定常的に実施するため、気象業務法、国土調査法、河川法、等の法律が策定されており、これをうけて観測業務実施のための規定、技術基準等がつくられています。
観測網の現況
水文観測の対象要素は主に降水量、河川の水位・流量、湖沼の水位、地下水の水位、河川や湖沼の水質です。このほかに、特殊な要素として気温や湿度、蒸発量、風向・風速などの気象要素があげられます。
これらの項目はどれも自然界の広い領域にわたる空間を代表するような量として観測される必要があることから 、一地点での観測ではなくネットワークをつくって観測されています。このような観測網の代表的なものを以下に示します。
雨量観測
雨量観測は主に気象庁と建設省および地方自治体で行われています。その総数は約6500か所に及んでいます。
気象庁の主要な観測システムはアメダス(地域気象観測システム)と呼ぶ約1300か所の雨量観測網です。これは約20~30km間隔で配置されており、観測値は毎正時(00分)に東京のアメダスセンターへ電話回線を利用して集められます。観測値は気象庁月報・観測所気象年報等にとりまとめられています。
建設省では約2500か所の雨量観測所を河川流域に配置しています。これらのうち約1600か所の観測所がテレメータでのデータ送信を行っています。建設省の雨量観測所は河川管理を主目的にしていることから、標高の高い観測所が多いです。観測値の一部は雨量年表として公表されています。
水位・流量観測
水位観測所の総数は約5600か所に及んでいます。観測は建設省で約2500か所、都道府県で約2300か所、電力会社等で約700か所となっています。建設省の水位観測所のうち約1400か所が水位・流量観測所です。観測値の一部は流量年表として公表されています。
建設省では雨量観測もあわせてこれらのデータをテレメータ通 信で収集する河川情報システムを構築し、防災情報や河川管理業務に活用しています。
地下水位観測
地下水位の観測は建設省と地方自治体が主に行っており、約1100か所の観測井戸が設置されています。観測値は地下水位年表として公表されています。
河川水質観測
河川水質の常時連続測定監視を行い、水質汚濁の状況を把握するためモニター装置が全国の河川の約200か所に設けられています。監視項目は水温、pH、溶存酸素、電気伝導度、濁度、シアンイオン、アンモニア等です。
雨量の観測
定義と単位
雨量とは、雨が地表上に落下し、そこに溜ったときの深さで表わされます。すなわち、雨量は長さの次元をもち、通常mmで測ります。このため雨量は地表上の各地点で定義される量です。
測定には、一般に受水口の直径が20cmの円筒容器を使い、溜った雨の体積を測って深さに換算します。降雨の現象は時間ととも に変化するので、ある時間内に降った雨の量を必要とすることが多いです。これを雨量強度といい、mm/min, mm/hといった単位で表現されます。これは速さの次元をもち、水の循環のフラックスの強さを表わします。雨量強度は場所と時刻の関数で表わされます。
このため平均雨量には場所的な平均と時間的な平均との2つがあります。流出の計算に用いられる雨量は通常流域平均雨量であり、流域内の数地点で観測された雨量を用いて求められます。地上雨量の測定箇所数による面積平均値の推定誤差は図-6.1に示されるようになります。
図-6.1 雨量観測所の数と面積雨量の推定誤差の関係
雨量の測定方法
雨量の測定は大別して、受水口をもつ地上雨量計、電波の反射の原理によるもの、に分けられます。
地上雨量計
よく使われる雨量計には指示雨量計と転倒升自記雨量計があります。指示雨量計は普通雨量計とも呼ばれ、直径20cmの円筒容器で、溜った水の量を決められた時間間隔で測ってその時間内での雨量とするものです。通常は日雨量を求めるのに用いられ、午前9時にその前の日から溜った水量を測ります。
転倒升雨量計は口径20cmの受水口に入った雨量が0.5mmになると、内部に設置された升が転倒し、そのパルスを記録するものです。したがって、転倒した回数から雨量が、転倒に要した時間から雨量強度が計測されます。このほか貯水型の雨量計や重量秤型の雨量計等があります。
受水口の大きさは国によって異なっています。また地上雨量は観測する地点の地形による風の影響を受けやすく、観測誤差を生じやすいため、風よけがつけられたり広い露場が必要となります。
レーダー雨量計
電磁波が大気中の水滴に当ると散乱される性質を利用して、レーダーを用いた降雨量の観測が行われるようになりました。散乱される電波の強度から雨滴のレーダービーム内での総量を測定し、落下速度を仮定して雨量強度に変換します。後方散乱される電波はレーダーエコーとしてアンテナにとらえられます。
このレーダーエコーの強度(レーダー反射因子)は雨滴径の6乗に比例することが知られています。一方雨量は雨滴径の3乗に比例し、その落下速度は径の平方根に比例するので、雨量強度は経験式として表わされます。
レーダー雨量計は地上雨量とは異なり、レーダービームの走査している空間の雨量を表わしていること、ビーム内に雨滴が充満していないこともあること、気温が0℃以下では氷粒であること、地上に到達するまでに雨滴の成長・消滅や風による移流があること等の問題がありますが、実時間で雨量の把握が可能であり、エコーの動きが見られるので、河川・道路の管理に役立っています。
水位観測
定義と単位
水文観測で扱う水位には河川の水位、湖沼の水位、潮位、地下水の水位等があります。これらの水位はある基準面からの高さで測られます。基準面は一般に東京湾中等潮位が使われます。単位は通常cmで表わされます。水位はある時刻の瞬時値として定められます。
水位の測定方法
水位計には普通水位標と自記水位計があります。普通水位標は柱に目盛をつけたもので水面の高さを直接目で読みます。
自記水位計にはフロートを水面に浮べその上下を記録させ るものから、圧力を測り水位を知るもの、超音波の反射により水面の高さを測るもの、電気抵抗を測り水位に変換するものなどいろいろなものがあります。また、記録の方法に記録紙に書くものからICメモリーや磁気テープに記録するものまで各種あります。これらは、その観測を実施する場所や測定対象の変動特性等を考慮して選ばれます。
流量観測
定義と単位
流量はある単位時間にある測定断面を通過する水の量で定義されます。水文学では河川や水路の流量が重要です。単位は通常m³/s、l/min等が用いられます。河川流量は水循環の一過程でのフラックスを表わしています。河川の流量は計測された時刻の値であり、連続した流量値は一般に水位流量曲線を用いて、水位の連続観測値から求められます。
流量観測の方法
流量を測る方法には大別して、容器で測る、堰やフリュームを用いて水位から求める、流速を測って通過断面積を掛けて求める、薬品の希釈を利用する、電磁気学の原理を用いる等の方法がとられます。これらは測定対象により使い分けられています。以下に通常の河川で行われている方法を述べます。
流速計を用いる方法
これは河川の測定断面の流速を測り断面積を乗じて流量を出すものです。流速面積法といいます。流速計にはプライス流速計、広井式流速計などの回転数と流速の関係をあらかじめ調べたものを用いるか、電磁流速計や超音波流速計等が使われます。この観測は流速が比較的遅いときに可能です。流速が速くなると流速計の測定点での保持が困難となったり、ごみのひっかかりの問題があります。
浮子を用いる方法
浮子がある区間を流れ下るのに要する時間を測り、その区間の平均流速を求めます。この流速値に横断面積を乗じて流量にします。洪水時には河川の流速は3~5 m/sにもなり、流速計を流れの中で正確に保持することが困難になるため、浮子を用いた観測が行われます。浮子の投下本数や種類は河川の水面幅や水深に応じて決められています。これは洪水の流れが水深に比べ流れの幅が非常に大きいこと、水位の上昇速度が速く手際よく観測しなければ流量が変化してしまうこと等を考慮して決められています。