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第 21 条 [集会·結社·表現の自由、検閲の禁止、通信の秘密]

  1. 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
  2. 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

(1)総説

Q: 表現の自由は、公共の福祉のみならず、特別な公法関係上または私法関係上の義務によっても制限を受けるのか。

A: :制限を受ける。憲法 21 条所定の言論、出版その他一切の表現の自由は、公共の福祉に反しえないものであること憲法 12 条、13 条の規定上明白であるばかりでなく、自己の自由意思に基づく特別な公法関係上または私法関係上の職務によって制限を受けることのあるのは、やむをえないところである(最大決昭 26·4·4)。

(2)アクセス権等

Q: 私人間において、反論文掲載請求権は、憲法上保障されているか。

A: 憲法上保障されていない。憲法 21 条等のいわゆる自由権的基本権の保障規定は、国または地方公共団体の統治行動に対して基本的な個人の自由と平等を保障することを目的としたものであって、私人相互の関係については、たとえ相互の力関係の相違から一方が他方に優越し事実上後者が前者の意思に服従せざるをえないようなときであっても、適用ないし類推適用されるものでない。このことは、私人間において、当事者の一方が情報の収集、管理、処理につき強い影響力をもつ日刊新聞紙を全国的に発行·発売する者である場合でも、憲法 21 条の規定から直接に、反論掲載の請求権が他方の当事者に生ずるものではない。さらに、反論文掲載請求権は、これを認める法の明文の規定は存在しないくサンケイ新聞事件-(最判昭 62·4·24)。

Q: 反論権の制度は、表現の自由を侵害する危険性があるか。

A: 表現の自由を間接的に侵害する危険性がある。いわゆる反論権の制度は、名誉あるいはプライバシーの保護に資するものがあることも否定しがたいが、新聞を発行·販売する者にとっては、反論文の掲載を強制されることになり、また、そのために紙面を割かなければならなくなる等の負担を強いられるのであって、これらの負担が、批判的記事、ことに公的事項に関する批判的記事の掲載を躊躇させ、憲法の保障する表現の自由を間接的に侵す危険につながるおそれもある。このように、反論権の制度は、民主主義社会においてきわめて重要な意味をもつ新聞等の表現の自由に対し重大な影響を及ぼすものであって、たとえサンケイ新聞などの日刊全国紙による情報の提供が一般国民に対し強い影響力をもち、その記事が特定の者の名誉ないしプライバシーに重大な影響を及ぼすことがあるとしても、不法行為が成立する場合は別論として、反論権の制度について具体的な成文法がないのに、反論権を認めるに等しい反論文掲載請求権をたやすく認めることはできない-サンケイ新聞事件-(最判昭 62·4·24)。

Q: 真実でない放送によって名誉を傷つけられたと主張する者は、放送法 道路法第4条 1 項に基づき、当該マスメディアに対して、訂正放送を求めることができるのか。

A: 訂正放送を求めることはできない。放送法 道路法第4条 1 項自体をみても、放送をした事項が真実でないことが放送事業者に判明したときに訂正放送等を行うことを義務付けているだけであって、訂正放送等に関する裁判所の関与を規定していないこと、同項所定の義務違反について罰則が定められていること等を併せ考えると、同項は、真実でない事項の放送がされた場合において、放送内容の真実性の保障および他からの干渉を排除することによる表現の自由の確保の観点から、放送事業者に対し、自律的に訂正放送等を行うことを国民全体に対する公法上の義務として定めたものであって、被害者に対して訂正放送等を求める私法上の請求権を付与する趣旨の規定ではない。放送法 道路法第4条 1 項は被害者からの訂正放送等の請求について規定しているが、同条 2 項の規定内容を併せ考えると、これは、同請求を、放送事業者が当該放送の真実性に関する調査及び訂正放送等を行うための端緒と位置付けているのであって、これをもって、上記の私法上の請求権の根拠と解することはできない(最判平 16·11·25)。

(3)言論·出版の自由

報道の自由と取材の自由

Q: 報道機関の報道は、国民の知る権利に奉仕するものか。また、事実の報道の自由は、憲法 21 条により保障されるのか。

A: 国民の知る権利に奉仕するものである。また、事実の報道の自由は、憲法 21 条により保障される。報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕するものである。したがって、思想の表明の自由とならんで、事実の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法 21 条の保障のもとにあるく博多駅テレビフィルム提出事件-(最大決昭 44·11·26)。

Q: 取材の自由は、憲法 21 条によって直接に保障されているのか。

A: :直接に保障されるのではなく、憲法 21 条の精神に照らして十分尊重に値する。報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法 21 条の精神に照らし、十分尊重に値するく博多駅テレビフィルム提出事件-(最大決昭 44·11·26)。

Q: 裁判所は報道機関が撮影した取材フィルムを、刑事裁判の証拠として提出を求めることができるか。

A: 諸般の事情を比較衡量して、提出を求めることができるか否かを決すべきである。公正な刑事裁判の実現を保障するために、報道機関の取材活動によって得られたものが、証拠として必要と認められるような場合には、取材の自由がある程度の制約を被ることとなってもやむをえない。しかし、このような場合においても、一面において、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重および取材したものの証拠としての価値、ひいては、公正な刑事裁判を実現するにあたっての必要性の有無を考慮するとともに、他面において取材したものを証拠として提出させられることによって報道機関の取材の自由が妨げられる程度およびこれが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情を比較衡量して決せられるべきであり、これを刑事裁判の証拠として使用することがやむをえない場合でも、それによって受ける報道機関の不利益が必要な限度を超えないように配慮されなければならないく博多駅テレビフィルム提出事件-(最大決昭 44·11·26)。

Q: 報道機関の取材の自由を制約することができる基準は何か。

A: 公正な裁判の実現と報道機関の取材の自由とを比較衡量することであるく博多駅テレビフィルム提出事件-(最大決昭 44·11·26)。→-7

Q: テレビフィルムが証拠として使用されることによって報道機関が被る不利益は、将来の取材の自由が妨げられるにとどまらず、報道の自由そのものが妨げられることになるのか。

A: 報道の自由そのものは妨げられない。本件の場合、現場を中立的な立場から撮影した報道機関の本件フィルムが証拠上きわめて重要な価値を有し、被疑者らの罪責の有無を判定するうえに、ほとんど必須のものと認められる状況にある。他方、本件フィルムは、すでに放映されたものを含む放映のために準備されたものであり、それが証拠として使用されることによって報道機関が被る不利益は、報道の自由そのものではなく、将来の取材の自由が妨げられるおそれがあるにとどまるのであって、この程度の不利益は、報道機関の立場を十分尊重すべきものとの見地に立っても、なお忍受されなければならない程度のものであるく博多駅テレビフィルム提出事件-(最大決昭 44·11·26)。

Q 法廷内における筆記行為は、憲法 21 条によって直接保障されているのか。

A: 直接保障されるのではなく、憲法 21 条 1 項の規定の精神に照らして尊重される。各人が自由にさまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会をもつことは、その者が個人として自己の思想および人格を形成、発展させ、社会生活の中に反映させていくうえにおいて不可欠であり、民主主義社会における思想および情報の自由な伝達、交流の確保という基本原理を真に実効あらしめるためにも必要であるから、情報等に接し、これを摂取する自由は、憲法 21 条 1 項の規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれ、このような情報等に接し、これを摂取することを補助するものとしてなされる限り、筆記行為の自由は、憲法 21 条 1 項の規定の精神に照らし尊重されるべきであるくレペタ訴訟-(最大判平 1·3·8)。

Q 筆記行為の自由に対する制約については、厳格な基準が要求されているのか。

A: 厳格な基準は要求されていない。筆記行為の自由は、憲法 21 条 1 項の規定によって直接保障されている表現の自由そのものとは異なるから、その制限または禁止には、表現の自由に制約を加える場合に必要とされる厳格な基準が要求されるものではないくレペタ訴訟-(最大判平 1·3·8)。

Q 傍聴人の法廷でのメモ採取行為に対する制限にあたっては、より制限的でない他の選びうる手段がないことを必要とするのか。

A: より制限的でない他の選びうる手段がないことを必要としないくレペタ訴訟-(最大判平 1·3·8)。→-11

Q 法廷において傍聴人がメモをとる行為の可否については、裁判長の法廷警察権の裁量に任されているのか。

A: 裁判長の法廷警察権の裁量に任されている。法廷警察権の行使は、訴訟の進行に全責任をもつ裁判長の広範な裁量に委ねられるべきであり、その行使の要否、とるべき措置についての判断は最大限に尊重されなければならず、傍聴人がメモをとる行為もその対象となるから、裁判長が上告人に対するメモの採取を不許可としても、法廷警察権の目的、範囲を著しく逸脱し、またはその方法がはなはだしく不当であるなどの特段の事情のない限り、国家賠償法 1 条 1 項の規定にいう違法な公権力の行使ということはできないくレペタ訴訟-(最大判平 1·3·8)。

Q 法廷内の写真撮影について裁判所の許可を必要とすることは憲法 21 条に反するか。

A: 憲法 21 条に反しない。憲法が裁判の対審および判決を公開法廷で行うことを規定しているのは、手続を一般に公開してその審判が公正に行われることを保障する趣旨であるから、たとい公判廷の状況を一般に報道するための取材活動であっても、その活動が公判廷における審判の秩序を乱し被告人その他訴訟関係人の正当な利益を不当に害することは、許されない。ところで、公判廷における写真の撮影等は、その行われる時、場所等のいかんによっては、好ましくない結果を生ずるおそれがあるので、刑事訴訟規則 215 条は写真撮影の許可等を裁判所の裁量に委ね、その許可に従わない限りこれらの行為をすることができないことを明らかにしたのであって、同規則は憲法に違反するものではないく北海タイムス事件-(最大決昭 33·2·17)。

Q 法律上新聞記者に証言拒絶権を認めないことは、憲法に違反するか。〔刑事事件〕

A: 憲法に違反しない。新聞記者に取材源につき証言拒絶権を認めるか否かは立法政策上考慮の余地のある問題であり、わが現行刑事訴訟法は新聞記者を証言拒絶権あるものとして列挙していないのであるから、刑事訴訟法 149 条に列挙する医師等と比較して新聞記者に同規定を類推適用することはできない。さらに、憲法 21 条は、新聞記者に特殊の保障を与えたものではなく、憲法 21 条の保障は、公共の福祉に反しない限り、いいたいことはいわせなければならない。未だいいたいことの内容も定まらず、これからその内容を作り出すための取材に関しその取材源について、公共の福祉のため最も重大な司法権の公正な発動につき必要欠くべからざる証言の義務をも犠牲にして、証言拒絶の権利までも保障したものではないく石井記者事件-(最大判昭 27·8·6)。

〔参考〕刑事訴訟法第 149 条 医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、公証人、宗教の職に在る者又はこれらの職に在った者は、業務上委託を受けたため知り得た事実で他人の秘密に関するものについては、証言を拒むことができる。

Q 民事事件において証人となった報道関係者が、民事訴訟法 197 条 1 項 3 号に基づいて取材源に係る証言を拒絶することができるのか。〔民事事件〕

A: 一定の要件の下で証言を拒絶することができる。ある秘密が職業の秘密にあたる場合においても、そのことから直ちに証言拒絶が認められるものではなく、そのうち保護に値する秘密についてのみ証言拒絶が認められると解すべきである。そして、保護に値する秘密であるかどうかは、秘密の公表によって生ずる不利益と証言の拒絶によって犠牲になる真実発見および裁判の公正との比較衡量により決せられる。報道関係者の取材源は、一般に、それがみだりに開示されると、報道関係者と取材源となる者との間の信頼関係が損なわれ、将来にわたる自由で円滑な取材活動が妨げられることとなり、報道機関の業務に深刻な影響を与え、以後その遂行が困難になると解されるので、取材源の秘密は職業の秘密にあたるというべきである。そして、当該取材源の秘密が保護に値する秘密であるかどうかは、当該報道の内容、性質、そのもつ社会的な意義·価値、当該取材の態様、将来における同種の取材活動が妨げられることによって生ずる不利益の内容、程度等と、当該民事事件の内容、性質、そのもつ社会的な意義·価値、当該民事事件において当該証言を必要とする程度、代替証拠の有無等の諸事情を比較衡量して決すべきことになる。そして、取材源の秘密は、取材の自由を確保するために必要なものとして、重要な社会的価値を有するというべきである。そうすると、(1)当該報道が公共の利益に関するものであって、(2)その取材の手段、方法が一般の刑罰法令に触れるとか、取材源となった者が取材源の秘密の開示を承諾しているなどの事情がなく、(3)しかも、当該民事事件が社会的意義や影響のある重大な民事事件であるため、当該取材源の秘密の社会的価値を考慮してもなお公正な裁判を実現すべき必要性が高く、そのために当該証言を得ることが必要不可欠であるといった事情が認められない場合には、当該取材源の秘密は保護に値すると解すべきであり、証人は、原則として、当該取材源に係る証言を拒絶することができると解する(最決平 18·10·3)。

〔参考〕民事訴訟法第 197 条 1 次に掲げる場合には、証人は、証言を拒むことができる。

3 技術又は職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合

Q 取材源の秘密が保護に値する秘密(証言拒絶が認められる秘密)であるか否かはどのように判断すべきか。

A: 諸事情を比較衡量して決すべきである(最決平 18·10·3)。

Q 報道機関が国家機密を公務員から聞き出すことは、正当な取材活動か。

A: 正当な取材活動であるか否かの判断は、目的と手段との関連で判断すべきである。報道機関が公務員に対し根気強く執拗に説得ないし要請を続けることは、それが真に報道の目的から出たものであり、その手段·方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会通念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為である。しかし、本件では、当初から秘密文書を入手するための手段として利用する意図で当該公務員と肉体関係をもち、同公務員がその関係のため被告人の依頼を拒みがたい心理状態に陥ったことに乗じて秘密文書を持ち出させるなど、取材対象者の人格の尊厳を著しく蹂躙した当該取材行為は、その手段·方法において法秩序全体の精神に照らし社会観念上、とうてい是認することのできない不相当なものであるから、正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びる-外務省秘密電文漏洩事件(西山記者事件)-(最決昭 53·5·31)。

Q 報道の自由は全く制約を受けないというものではなく、報道機関が取材の目的にあっても、公務員に秘密を漏示するようそそのかす行為は、正当な業務行為とはいえず、直ちに違法性が推定されるのか。

A: 方法、手段が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限り、実質的に違法性を欠き正当な業務行為であるく外務省秘密電文漏洩事件(西山記者事件)-(最決昭 53·5·31)。→18

Q 国家公務員法 109 条 12 号にいう秘密とは何か。またその判定は司法判断に服するのか。

A: 非公知の事実であって、実質的にもそれを秘密として保護するに値するものをいい、司法判断に服する。国家公務員法 109 条 12 号、100 条 1 項にいう秘密とは、非公知の事実であって、実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるものをいい、その判定は司法判断に服する。ところで、昭和 46 年 5 月 28 日に愛知外務大臣とマイヤー駐日米国大使との間でなされた、いわゆる沖縄返還協定に関する会談の概要が記載された本件 1034 号電信文案は、上記の秘密にあたる。また、その電文中、対米請求権問題の財源に関するいわゆる密約も、憲法秩序に抵触するとまでいえるような行動ではないから、違法秘密といわれるべきものではないく外務省秘密電文漏洩事件(西山記者事件)-(最決昭 53·5·31)。

Q 報道機関は、取材ビデオテープを刑事事件の捜査に用いられる場合には、その提出を拒否できるのか。

A: 拒否できる否かは諸般の事情を比較衡量して決する必要がある。公正な裁判の実現とともに、検察事務官が行った差押処分に関しても、国家の基本的要請である公正な刑事裁判を実現するためには、適正迅速な捜査が不可欠の前提であり、報道の自由ないし取材の自由に対する制約の許否に関しては両者の間に本質的な差異はない。したがって、取材ビデオテープの差押えの可否を決するにあたっては、捜査の対象である犯罪の性質、内容、軽重等および差し押さえるべき取材活動の結果の証拠としての価値、ひいては適正迅速な捜査を遂げるための必要性と、取材結果を証拠として押収されることによって報道機関の報道の自由が妨げられる程度および将来の取材活動の自由が受ける影響その他諸般の事情を比較衡量すべきである(最判平 1·1·30)。

Q 公正な裁判の実現等のために、取材の自由を一律に制約できるのか。

A: 公正な裁判の実現ないし適正迅速な捜査の遂行の必要性と取材の自由の確保とを比較衡量して取材の自由に対する制約を決すべきである。取材の自由も公正な裁判の実現というような憲法上の要請がある場合には、ある程度の制約を受けざるをえない。その趣旨からすると、公正な刑事裁判を実現するために不可欠である適正迅速な捜査の遂行という要請がある場合にも、同様に、取材の自由がある程度の制約を受ける場合があること、また、このような要請から報道機関の取材結果に対して差押えをする場合において、差押えの可否を決するにあたっては、捜査の対象である犯罪の性質、内容、軽重等および差し押えるべき取材結果の証拠としての価値、ひいては適正迅速な捜査を遂げるための必要性と、取材結果を証拠として押収されることによって報道機関の報道の自由が妨げられる程度および将来の取材の自由が受ける影響その他諸般の事情を比較衡量すべきであることは明らかである-TBS ビデオテープ押収事件-(最決平 2·7·9)。

Q 報道機関の取材ビデオテープが悪質な被疑事件の全容を解明するうえで重要な証拠価値をもち、他方、当該テープが被疑者らの協力によりその犯行場面等を撮影収録したものであるなどの事実関係の下においては、当該テープに対する捜査機関の差押処分は、憲法 21 条に違反しないのか。

A: 憲法 21 条に違反しない。本件差押は、暴力団組長の被疑者が組員らと共謀のうえ債権回収を図るため暴行·脅迫したという、軽視できない悪質な傷害、暴力行為等処罰に関する法律違反被疑事件の捜査として行われた。しかも、被疑者、共犯者の供述が不十分で、関係者の供述も一致せず、傷害事件の重要部分を確定しがたかったため、真相を明らかにする必要上、上記の犯行状況等を収録したと推認される本件ビデオテープが差し押さえられた。本件ビデオテープは事案の全容を解明して犯罪の成否を判断するうえで重要な証拠価値をもつものであったと認められる。他方、本件ビデオテープはいわゆるマザーテープだが、差押当時、編集を終えて放映を済ませており、本件差押により申立人の受ける不利益は、本件ビデオテープの放映が不可能となって報道の機会が奪われるというものではなかった。また、本件の撮影は被疑者らの協力を得て行われ、取材協力者はビデオテープの放映を了承していたため、申立人が取材協力者のためその身元を秘匿するなど擁護しなければならない利益は、ほとんど存在しない。さらに本件は、撮影開始後、暴行を現認しながらその撮影を続けたものであり、犯罪者の協力により犯行現場を撮影収録したものといえるが、そのような取材を報道のための取材の自由の一態様として保護しなければならない必要性は疑わしいといわざるをえない。そうすると、本件差押により、申立人をはじめ報道機関において、将来本件と同様の方法により取材をすることが仮に困難になるとしても、その不利益はさして考慮に値しない。以上の事情を総合し、本件差押は、適正迅速な捜査の遂行のためやむをえないものであり、申立人の受ける不利益は、受忍すべきものというべきである-TBS ビデオテープ押収事件-(最決平 2·7·9)。

Q 放送事業者等から放送番組のための取材を受けた者が、取材担当者の言動等によつて当該取材で得られた素材が一定の内容、方法により放送に使用されるものと期待し、信頼したが、放送された番組の内容が取材担当者の説明と異なるものとなつた場合、放送事業者等の不法行為は成立するのか。

A: 不法行為は、原則として成立しないが、一定の要件の下で、成立する場合がある。放送事業者がどのように番組の編集をするかは、放送事業者の自律的判断にゆだねられており、番組の編集段階における検討により最終的な放送の内容が当初企画されたものとは異なるものになったり、企画された番組自体放送に至らない可能性があることも当然のことと認識されているものと考えられることからすれば、放送事業者又は制作業者から素材収集のための取材を受けた取材対象者が、取材担当者の言動等によって、当該取材で得られた素材が一定の内容、方法により放送に使用されるものと期待し、あるいは信頼したとしても、その期待や信頼は原則として法的保護の対象とはならない。もっとも、取材対象者は、取材担当者から取材の目的、趣旨等に関する説明を受けて、その自由な判断で取材に応ずるかどうかの意思決定をするものであるから、取材対象者が抱いた上記のような期待、信頼がどのような場合でもおよそ法的保護の対象とはなりえないということもできない。すなわち、当該取材に応ずることにより必然的に取材対象者に格段の負担が生ずる場合において、取材担当者が、そのことを認識したうえで、取材対象者に対し、取材で得た素材について、必ず一定の内容、方法により番組中で取り上げる旨説明し、その説明が客観的にみても取材対象者に取材に応ずるという意思決定をさせる原因となるようなものであったときは、取材対象者が同人に対する取材で得られた素材が上記一定の内容、方法で当該番組において取り上げられるものと期待し、信頼したことが法律上保護される利益となりうるものである。そして、そのような場合に、結果として放送された番組の内容が取材担当者の説明と異なるものとなった場合には、取材対象者の上記期待、信頼を不当に損なうものとして、放送事業者や制作業者に不法行為責任が認められる余地がある(最判平 20·6·12)。

Q 受信設備設置者に受信契約の締結を強制する放送法 6道路法第4条 1 項は、契約の自由、知る権利および財産権等を侵害し、憲法 13 条、21 条、29 条に違反するのか。

A: 憲法 13 条、21 条、29 条に違反しない。公共放送事業者と民間放送事業者との二本立て体制の下において、前者を担うものとして原告(日本放送協会)を存立させ、これを民主的かつ多元的な基盤に基づきつつ自律的に運営される事業体たらしめるためその財政的基盤を受信設備設置者に受信料を負担させることにより確保するものとした仕組みは、憲法 21 条の保障する表現の自由の下で国民の知る権利を実質的に充足すべく採用され、その目的にかなう合理的なものであると解されるのであり、かつ、放送をめぐる環境の変化が生じつつあるとしても、なおその合理性が今日までに失われたとする事情も見いだせないのであるから.これが憲法上許容される立法裁量の範囲内にあることは、明らかというべきである。このような制度の枠を離れて被告が受信設備を用いて放送を視聴する自由が憲法上保障されていると解することはできないく NHK 受信契約締結承諾等請求事件-(最大判平 29·12·6)。19 条に違反するものではない(最大判昭 36·2·15)。

(4)表現内容に関する規制

名誉権

Q 私人の私生活の行状は、刑法 230 条の 2 第 1 項の「公共の利害に関する事実」に該当するか。

A: :該当する場合がある。私人の私生活の行状であっても、そのたずさわる社会的活動の性質およびこれを通じて社会及ぼす影響力の程度などのいかんによっては、その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として、刑法 230 条の 2 第 1 項にいう「公共の利害に関する事実」にあたる場合がある-月刊ペン事件-(最判昭 56·4·16)。

営利的言論の自由

Q 法律により一定事項以外の広告を禁止することは、憲法 21 条に反しないか。

A: 憲法 21 条に反しない。あん摩はり師きゅう師及び柔道整復師法 7 条の広告制限により適応性の広告をも許さないのは、もしこれを無制限に許容するときは、患者を吸引しようとするためややもすれば虚偽誇大に流れ、一般大衆を惑わすおそれがあり、その結果適時適切な治療を受ける機会を失わせるような結果を招来することをおそれたためであって、このような弊害を未然に防止するため一定事項以外の広告を禁止することは、国民の保健衛生上の見地から、公共の福祉を維持するためやむをえない措置として是認されなければならず、同法 7 条は、憲法 21 条、11 条、12 条、13 条、

Q 刑法 230 条の 2 第 1 項にいう事実を、真実であると誤信したとしても、真実であることの証明ができない場合には、名誉毀損罪が必ず成立するのか。

A: 真実であることの証明がない場合でも、名誉毀損の罪が成立しない場合がある。刑法 230 条の 2 の規定は、人格権としての個人の名誉の保護と、憲法 21 条による正当な言論の保障との調和を図ったものであり、これら両者間の調和と均衡を考慮するならば、たとい刑法 230 条の 2 第 1 項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないく夕刊和歌山事件-(最大判昭 44·6·25)。

Q 民事上の不法行為たる名誉棄損については、もし当該事実が真実であることが証明されなくても、不法行為は成立しないのか。

A: その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、不法行為は成立しない。民事上の不法行為たる名誉棄損については、その行為が公共の利害に関する事実に係りもっぱら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、当該行為には違法性がなく、不法行為は成立せず、もし、当該事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、当該行為には故意もしくは過失がなく、結局、不法行為は成立しないものと解するのが相当である(このことは、刑法 230 条の 2 の規定の趣旨からも十分うかがうことができる)(最判昭 41·6·23)。

わいせつ文書

Q わいせつ文書の販売を規制する刑法 175 条は、表現の自由を侵害する規定か。

A 表現の自由を侵害する規定ではない。せつ文書は性欲を興奮、刺戟し、人間をしてその動物的存在の面を明瞭に意識させるから、羞恥の感情をいだかしめる。そしてそれは人間の性に関する良心を麻痺させ、理性による制限を度外視し、奔放、無制限に振舞い、性道徳、性秩序を無視することを誘発する危険を包蔵している。このため、性道徳に関しても法はその最小限度を維持することを任務とする。そして刑法 175 条がわいせつ文書の頒布販売を犯罪として禁止しているのも、かような趣旨に出ているのである。このため、出版その他表現の自由を公共の福祉により制限することを認めなければならない。そして性的秩序を守り、最小限度の性道徳を維持することが公共の福祉の内容をなすことについて疑問の余地がないから、本件訳書をわいせつ文書と認めその出版を公共の福祉に違反するものとなすことができるくチャタレイ事件-(最大判昭 32·3·13)。

Q わいせつ文書は、表現の自由の保障の枠外にあるので、公共の福祉による表現の自由の制約を論じる必要はないのか。

A: :わいせつ文書にも、表現の自由の保障が及ぶが、公共の福祉による制約は認められるくチャタレイ事件-(最大判昭 32·3·13)。→30

Q わいせつ文書にあたるか否かは、その文書の芸術性とわいせつ性との比較衡量によって決すべきか。

A: 比較衡量によって決すべきではない。文書がもつ芸術性·思想性が、文書の内容である性的描写による性的刺激を減少·緩和させて、刑法が処罰の対象とする程度以下にわいせつ性が解消されない限り、芸術的·思想的価値のある文書であっても、わいせつの文書としての取扱いを免れることはできない。当裁判所は、芸術的·思想的価値のある文書はわいせつの文書として処罰の対象とすることができないとか、名誉毀損罪に関する法理と同じく、文書のもつわいせつ性によって侵害される法益と芸術的·思想的文書としてもつ公益性とを比較衡量して、わいせつ罪の成否を決すべしとするような主張は、採用することができないく悪徳の栄え事件-(最大判昭 44·10·15)。

Q 文書のわいせつ性の有無は、問題となる部分のみを取り出して判断すべきであって、文書全体との関連において判断すべきではないのか。

A: :文書全体との関連において判断すべきである - 悪徳の栄え事件-(最大判昭 44·10·15)。

Q 文書がもつ芸術性·思想性が、文書の内容である性的描写による性的刺激を減少·緩和させて、刑法が処罰の対象とする程度以下にわいせつ性を解消させる場合が存在しうるのか。

A: :存在しうる - 悪徳の栄え事件-(最大判昭 44·10·15)。

Q 文書に芸術性と思想性があっても、それがわいせつ性をもつ場合に、これを処罰の対象とすることは、憲法 21 条に反しないか。

A: 憲法 21 条に反しない。芸術的·思想的価値のある文書についても、それがわいせつ性をもつものである場合には、性生活に関する秩序および健全な風俗を維持するため、これを処罰の対象とすることが国民の生活全体の利益に合致するものと認められるから、これを目して憲法 21 条、23 条に違反するものということはできないく悪徳の栄え事件-(最大判昭 44·10·15)。

Q 文書のわいせつ性の判断は、どのようにすべきか。

A: 芸術性·思想性等による性的刺激の緩和の程度等を検討して、その時代の健全な社会通念に照らして判断すべきである。文書のわいせつ性の判断にあたっては、当該文書の性に関する露骨で詳細な描写叙述の程度とその手法、当該描写叙述の文書全体に占める比重、文書に表現された思想等と当該描写叙述との関連性、文書の構成や展開、さらには芸術性·思想性等による性的刺激の緩和の程度、これらの観点から当該文書を全体としてみたときに、主として、読者の好色的興味に訴えるものと認められるか否かなどの諸点を検討することが必要であり、これらの事情を総合し、その時代の健全な社会通念に照らして、それが「徒らに性欲を興奮または刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」といえるか否かを決すべきで あるく四畳半襖の下張事件-(最判昭 55·11·28)。

Q 自動販売機による有害図書の販売を条例で禁止することは、表現の自由に対する侵害にならないのか。

A: 表現の自由に対する侵害にならない。本条例の定めるような有害図書が一般に思慮分別の未熟な青少年の性に関する価値観に悪影響を及ぼし、性的な逸脱行為や残虐な行為を容認する風潮の助長につながるものであって、青少年の健全な育成に有害であることは、社会共通の認識になっている。さらに、自販機による有害図書の販売は、売手と対面しないため心理的に購入が容易であること、昼夜を問わず購入ができること、購入意欲を刺激しやすいことなどの点において、書店等における販売よりもその弊害が一段と大きい。それ故、有害図書の自販機への収納禁止は、青少年に対する関係において、憲法 21 条 1 項に違反しないことはもとより、成人に対する関係においても、有害図書の流通を幾分制約することにはなるが、青少年の健全な育成を阻害する有害環境を浄化するための規制に伴う必要やむをえない制約であり、憲法 21 条 1 項に違反しないく岐阜県青少年保護育成条例事件-(最判平 1·9·19)。同事業について規制を必要とする程度は高いといえる。他方、本件届出制度は、インターネットを利用してなされる表現に関し、そこに含まれる情報の性質に着目して事業者に届出義務を課すものではあるが、その届出事項の内容は限定されたものである。また、届出自体により、事業者によるウェブサイトへの説明文言の記載や同事業利用者による書込みの内容が制約されるものではないうえ、他の義務規定を併せみても、事業者が、児童による利用防止のための措置等をとりつつ、インターネット異性紹介事業を運営することは制約されず、児童以外の者が、同事業を利用し、児童との性交等や異性交際の誘引に関わらない書込みをすることも制約されない。また、本法が、無届けで同事業を行うことについて罰則を定めていることも、届出義務の履行を担保するうえで合理的なことであり、罰則の内容も相当なものである。以上を踏まえると、本件届出制度は、上記の正当な立法目的を達成するための手段として必要かつ合理的なものというべきであって、憲法 21 条 1 項に違反するものではない(最判平 26·1·16)。

Q 都道府県の青少年保護条例に基づき、知事が「著しく青少年の性的感情を刺激し、その健全な成長を阻害するおそれのあるもの」と認めるフロッピーディスクを審議会等の諮問を経たうえで有害図書類として指定する処分は、憲法 21 条 2 項前段の規定する検閲にあたるのか。

A: :検閲にあたらないく岐阜県青少年保護育成条例事件-(最判平 1·9·19)。

Q インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律(届出制度)は、憲法 21 条 1 項に違反するのか。

A: 憲法 21 条 1 項に違反しない。本法は、インターネット異性紹介事業の利用に起因する児童買春その他の犯罪から児童(18 歳に満たない者)を保護し、もって児童の健全な育成に資することを目的としているところ(1条、2条1号)、思慮分別が一般に未熟である児童をこのような犯罪から保護し、その健全な育成を図ることは、社会にとって重要な利益であり、本法の目的は、もとより正当である。そして、同事業の利用に起因する児童買春その他の犯罪が多発している状況を踏まえると、それら犯罪から児童を保護するために、同事業について規制を必要とする程度は高いといえる他方.本件届出制度は、インターネットを利用してなされる表現に関し、そこに含まれる情報の性質に着目して事業者に届出義務を課すものではあるが、その届出事項の内容は限定されたものである。また.届出自体により、事業者によるウェブイトヘの説明文言の記載や同事業利用者による書込みの内容が制約されるものではないうえ、他の義務規定を併せみても、事業者が、児童による利用防止のための措置等をとりつつ.インターネット異性紹介事業を運営することは制約されず、児童以外の者が、同事業を利用し、児童との性交等や異性交際の誘引に関わらない書込みをすることも制約されない。また.本法が、無届けで同事業を行うことにいて罰則を定めていることも、届出義務の履行を担保するうえで合理的なことであり、罰則の内容も相当なものである。以上を踏まえると、本件届出制度は、上記の正当な立法目的を達成するための手段として必要かつ合理的なものというべきであつて.憲法21条1頂に違反するものではない(最判平26・1・16)。

学校内の表現の自由

Q 中学生の学校内外における政治的活動をしないよう指導説得し、生徒の校内における文書の配布につき、学校当局の許可のない文書の配布を禁止することは、憲法 21 条に違反するのか。

A: :憲法 21 条に違反しない。本件の上告人の行為は、いずれも中学校における学習とは全く関係のないものであり、かかるビラ等の文書の配布および落書きを自由とすることは、中学校における教育環境に悪影響を及ぼし、学習効果の減殺等学習効果をあげるうえにおいて放置できない弊害を発生させる相当の蓋然性があるものということができるから、かかる弊害を未然に防止するため、上記のような行為をしないよう指導説得することはもちろん、生徒会規則において生徒の校内における文書の配布を学校当局の許可にかからしめ、その許可のない文書の配布を禁止することは、必要かつ合理的な範囲の制約であって、憲法 21 条に違反するものではなく、したがって、この規制に反した行為を内申書に記載し、入学者選抜の資料に供したからといって、上告人の表現の自由を侵すものとはいえないく麹町中学内申書事件-(最判昭 63·7·15)。

煽動行為

Q 国民として負担する法律上の重要な義務の不履行を煽動する行為は、表現の自由の保障の範囲内の行為か。

A: 表現の自由の限界を逸脱する行為である。現今における貧困なる食糧事情の下に国家が国民全体の主要食糧を確保するために制定した食糧管理法所期の目的の遂行を期するために定められたる同法の規定に基づく命令による主要食糧の政府に対する売渡しに関し、これをなさざることを煽動するがごときは、政府の政策を批判し、その失政を攻撃するにとどまるものではなく、国民として負担する法律上の重要な義務の不履行を慫恿し、公共の福祉を害するものである。かかる行為は、

第 21 条 の保障する言論の自由の限界を逸脱し、社会生活において道義的に責むべきものであるから、これを犯罪として処罰する法規は

(5)表現の時·場所·方法に関する規制

Q 道路上の政治活動のための街頭演説を道路交通取締法規で規制することは、憲法 21 条に反しないか。

A: 憲法 21 条に反しない。道路において演説その他の方法により人寄せをすることは、場合によっては道路交通の妨害となり、ひいて、道路交通上の危険の発生、その他公共の安全を害するおそれがあるから、演説などの方法により人寄せをすることを警察署長の許可にかからしめ、無許可で演説などのため人寄せをしたものを処罰することは公共の福祉のため必要であり、この程度の制限を規制した道路交通取締法規は憲法 21 条に抵触するものではない(最判昭 35·3·3)。

Q 都市の美観風致を維持するために、屋外広告物の設置を条例で規制することは、表現の自由に対する著しい制限になるか。

A: :必要かつ合理的な制限である。大阪市屋外広告物条例は、屋外広告物法に基づいて制定されたもので、法律と条例の両者相まって、大阪市における美観風致を維持し、および公衆に対する危害を防止するために、屋外広告物の表示の場所および方法ならびに屋外広告物を掲出する物件の設置および維持について必要な規制をしているのであり、本件印刷物の貼付が営利と関係がないとしても、上記法律および条例の規制の対象とされているところ、被告人らのした橋柱、電柱、電信柱にビラをはりつけた本件各行為は、都市の美観風致を害するものとして規制の対象とされている。そして、国民の文化的生活の向上を目途とする憲法の下においては、都市の美観風致を維持することは、公共の福祉を保持するためであるから、この程度の規制は、公共の福祉のため、表現の自由に対し許された必要かつ合理的な制限である(最大判昭 43·12·18)。

Q 他人の家屋その他の工作物にはり札をする行為を禁止することは、表現の自由に対し著しく不合理であることが明白な制限か。

A: 必要かつ合理的な制限である。軽犯罪法 1 条 33 号前段は、主として他人の家屋その他の工作物に関する財産権、管理権を保護するために、みだりにこれらの物にはり札をする行為を規制の対象としているところ、たとい思想を外部に発表するための手段であっても、その手段が他人の財産権、管理権を不当に害するものは、許されない。したがって、この程度の規制は、公共の福祉のため、表現の自由に対し許された必要かつ合理的な制限であって、当該法条は憲法 21 条 1 項に違反しない(最大判昭 45·6·17)。

Q 街路樹等の支柱を、政治的な意見や情報を伝えるビラ、ポスターも含め広告物禁止の対象とし、これに違反する者に刑事罰を科することは許されるのか。

A: 許される。大分県屋外広告物条例は、屋外広告物法に基づいて制定されたもので、当該法律と相まって、大分県における美観風致の維持および公衆に対する危害防止の目的のために、屋外広告物の表示の場所·方法および屋外広告物を掲出する物件の設置·維持について必要な規制をしているところ、国民の文化的生活の向上を目途とする憲法の下においては、都市の美観風致を維持することは、公共の福祉を保持する所以であり、その程度の規制は、公共の福祉のため、表現の自由に対し許された必要かつ合理的な制限である(最判昭 62·3·3)。

Q 被告人らが、ビラの配布のために本件立川宿舎の敷地および各号棟の 1 階出入口から各室玄関前までに立ち入る行為を、住居侵入罪に問うことは、憲法 21 条 1 項に違反するのか。

A: 憲法 21 条 1 項に違反しない。憲法 21 条 1 項も、表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく、公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を認するものであって、たとえ思想を外部に発表するための手段であっても、その手段が他人の権利を不当に害するようなものは許されない(最判昭 59·12·18 参照)。本件では、表現そのものを処罰することの憲法適合性が問われているのではなく、表現の手段すなわちビラの配布のために「人の看守する邸宅」に管理権者の承諾なく立ち入ったことを処罰することの憲法適合性が問われているところ、本件で被告人らが立ち入った場所は、防衛庁の職員およびその家族が私的生活を営む場所である集合住宅の共用部分およびその敷地であり、自衛隊·防衛庁当局がそのような場所として管理していたもので、一般に人が自由に出入りすることのできる場所ではない。たとえ表現の自由の行使のためとはいっても、このような場所に管理権者の意思に反して立ち入ることは、管理権者の管理権を侵害するのみならず、そこで私的生活を営む者の私生活の平穏を侵害するものといわざるをえない。したがって、本件被告人らの行為をもって刑法 130 条前段の罪(住居侵入罪)に問うことは、憲法 21 条 1 項に違反するものではない(最判平 20·4·11、最判平 21·11·30)。

(6)違憲審査基準検閲の禁止と事前抑制禁止の理論

Q 検閲の主体は行政権に限られるか。

A: 行政権に限られる。検閲とは、行政権が主体となって、思想内容の表現物を対象とし、その全部または一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的·一般的に、発表前にその内容を審査したうえ、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指す。この検閲の禁止は、公共の福祉を理由とする例外の許容をも認めない趣旨である-税関検査事件-(最大判昭 59·12·12)。

Q 検閲の禁止に例外は認められるか。

A: 例外は認められないく税関検査事件-(最大判昭 59·12·12)。

Q 検閲の時期は、発表前か発表後か。

A: 発表前であるく税関検査事件-(最大判昭 59·12·12)

Q 検閲の対象は、表現物一般か。

A: 思想内容等の表現物であるく税関検査事件-(最大判昭 59·12·12)。

Q 税関検査は、憲法 21 条 2 項の禁止する「検閲」にあたるか。

A: 「検閲」にあたらない。税関検査により輸入が禁止される表現物は、一般に、国外においては発表済みのものであって、その輸入を禁止したからといって、当該表現物につき事前に発表そのものを一切禁止するものではない。また、当該表現物は輸入が禁止されるだけで、税関により没収、廃棄されるわけではないから、発表の機会が全面的に奪われるわけではない以上、税関検査は、事前規制そのものではない。さらに、当該検査は関税徴収手続の一環としてこれに付随して行われるものであり、思想内容などそれ自体を網羅的に審査し規制することを目的とするものではない。以上の点から、税関検査は、憲法 21 条の禁止する「検閲」にあたらないく税関検査事件-(最大判昭 59·12·12)。

Q わが国内において処罰の対象となるわいせつ文書等に関する行為において、単なる所持を目的とする輸入は、これを規制の対象から除外すべきであるから、単なる所持の目的かどうかを区別して、わいせつ文書等の流入を阻止している限りにおいて、税関検査によるわいせつ表現物の輸入規制は、憲法 21 条 1 項の規定に反しないのか。

A: 単なる所持目的かどうかを区別することなく、わいせつ表現物の輸入規制をしても、憲法 21 条 1 項の規定に反しない。わが国内においてわいせつ文書等に関する行為が処罰の対象となるのは、その頒布、販売および販売の目的をもってする所持等であって(刑法 175 条)、単なる所持自体は処罰の対象とされていないから、最小限度の制約としては、単なる所持を目的とする輸入は、これを規制の対象から除外すべき筋合いであるけれども、いかなる目的で輸入されるかはたやすく識別されがたいばかりでなく、流入したわいせつ表現物を頒布、販売の過程に置くことが容易であることは見易い道理であるから、わいせつ表現物の流入、伝播によりわが国内における健全な性的風俗が害されることを実効的に防止するには、単なる所持目的かどうかを区別することなく、その流入を一般的に、いわば水際で阻止することもやむをえないものといわなければならないく税関検査事件-(最大判昭 59·12·12)。

Q 教科書検定制度は、憲法 21 条の「検閲」に該当するか。

A: :憲法 21 条の「検閲」に該当しない。本件検定は一般図書としての発行を何ら妨げるものではなく、発表禁止目的や発表前の審査などの特質がなく、不合格図書を一般図書として発行し、思想の自由市場に登場させることは何ら妨げないから、「検閲」にあたらず、憲法 21 条 2 項前段の規定に違反しない。また、普通教育の場においては、教育の中立·公正、一定水準の確保等の要請があり、これを実現するために、不適切と認められる図書の教科書としての発行、使用等を禁止する必要があること、そして、その制限も、不適切と認められる内容を含む図書のみを、教科書という特殊な形態において発行を禁ずるものにすぎないことなどを考慮すると、本件検定による表現の自由の制限は、合理的で必要やむをえない限度のものであって、憲法 21 条 1 項の規定に違反しないく第一次家永教科書訴訟-(最判平 5·3·16)。 国家総合-平成 29、地方上級-平成 6(市共通)、市役所上·中級-平成 11、国家一般-平成 24、国 Ⅱ-平成 18·15·6、裁判所 Ⅰ·Ⅱ-平成 23、国税-平成 8

Q 日本放送協会が自らの判断で音声の一部を削除して放送することは、「検閲」にあたるか。

A: :検閲にあたらない。日本放送協会は、行政機関ではなく、自治省行政局選挙部長に対しその見解を照会したとはいえ、自らの判断で本件削除部分の音声を削除してテレビジョン放送をしたのであるから、この措置が憲法 21 条 2 項前段にいう「検閲」にあたらない(最判平 2·4·17)。

Q 裁判所の仮処分による事前差止めは、表現行為に対する事前抑制として許されないのか。

A: :原則として許されないが、厳格かつ明確な要件の下で例外的に許される。仮処分による事前差止めは、表現物の内容の網羅的一般的な審査に基づく事前規制が行政機関によりそれ自体を目的として行われる場合とは異なり、個別的な私人間の紛争について、司法裁判所により、当事者の申請に基づき差止請求権等の私法上の被保全権利の存否、保全の必要性の有無を審理判断して発せられるものであって、「検閲」にはあたらない。そして、表現行為に対する事前抑制は、新聞、雑誌その他の出版物や放送等の表現物がその自由市場に出る前に抑止してその内容を読者ないし聴視者の側に到達させる途を閉ざしまたはその到達を遅らせてその意義を失わせ、公の批判の機会を減少させるものであり、また、事前抑制たることの性質上、予測に基づくものとならざるをえないこと等から事後制裁の場合よりも広汎にわたりやすく、濫用のおそれがあるうえ、実際上の抑止的効果が事後制裁の場合より大きいと考えられるのであって、表現行為に対する事前抑制は、表現の自由を保障し検閲を禁止する憲法 21 条の趣旨に照らし、厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容されうるく北方ジャーナル事件-(最大判昭 61·6·11)。

Q 裁判所の仮処分による事前差止めは憲法 21 条 2 項の「検閲」にあたるか。

A: :憲法 21 条 2 項の「検閲」にあたらないく北方ジャーナル事件-(最大判昭 61·6·11)。

Q 裁判所の仮処分による事前差止めの対象が公務員または公職選挙の候補者に対する評価、批判等の表現行為に関するものである場合には、その事前差止めは許されるか。

A: 事前差止めは、原則として許されない。裁判所の仮処分による事前差止めの対象が公務員または公職選挙の候補者に対する評価、批判等の表現行為に関するものである場合には、そのこと自体から、一般にそれが公共の利害に関する事項であるということができ、その表現が私人の名誉権に優先する社会的価値を含み憲法上特に保護されるべきであることにかんがみると、当該表現行為に対する事前差止めは、原則として許されない。ただし、その表現内容が真実でなく、またはそれがもっぱら公益を図る目的のものでないことが明白であって、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあるときは、例外的に事前差止めが許される-北方ジャーナル事件-(最大判昭 61·6·11)。

Q 公職の選挙への立候補予定者を批判攻撃する記事を掲載した雑誌の表現内容が真実でなく、又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であって、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあると認められる場合に、裁判所が事前差止めをすることは、例外的に違憲とならないのか。

A: :例外的に違憲とならないく北方ジャーナル事件-(最大判昭 61·6·11)。

Q 公職選挙の候補者に対する論評等によって、その者の名誉·プライバシーに重大かつ著しい損害を与える場合には、裁判所がその表現行為について事前差止めをすることも許されるのか。

A: :事前差止めをすることも許されるく北方ジャーナル事件-(最大判昭 61·6·11)。

Q 人格的価値を侵害された者の差止請求により、裁判所が出版物の差止をすることは、表現の自由を侵害することにならないのか。

A: 表現の自由を侵害することにはならない。人格的価値を侵害された者は、人格権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができる。どのような場合に侵害行為の差止めが認められるかは、侵害行為の対象となった人物の社会的地位や侵害行為の性質に留意しつつ、予想される侵害行為によって受ける被害者側の不利益と侵害行為を差し止めることによって受ける侵害者側の不利益とを比較衡量して決すべきである。そして、侵害行為が明らかに予想され、その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれがあり、かつ、その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になると認められるときは侵害行為の差止めを肯認すべきである。したがって、その小説の登場人物は公的立場にある者ではなく、また、小説の表現内容が公共の利害に関する事項でもないことに加え、小説が出版されれば請求者の精神的苦痛が倍加して平穏な日常生活や社会生活を送ることが困難となるおそれがあり、加えて、そうした重大な損失が、小説を読む者が新たに加わるごとに増加しその平穏な日常生活が害される可能性も増大し、事後的にはその損失を回復することが著しく困難である場合には、人格権に基づき、当該小説の公表の差止めを求めることができるく石に泳ぐ魚事件-(最判平 14·9·24)。

Q 承諾なくして小説の登場人物にされ、その小説の記述により自己のプライバシーを侵害された者が、公的立場にある者ではなく、また、小説の表現内容が公共の利害に関する事項でもないことに加え、小説が出版されれば請求者の精神的苦痛が倍加して平穏な日常生活や社会生活を送ることが困難となるおそれがあり、加えて、そうした重大な損失が、小説を読む者が新たに加わるごとに増加しその平穏な日常生活が害される可能性も増大し、事後的にはその損失を回復することが著しく困難である場合には、人格権に基づき、当該小説の公表の差止めを求めることができるのか。

A: 当該小説の公表の差止めを求めることができるく石に泳ぐ魚事件-(最判平 14·9·24)。

明確性の理論(合憲限定解釈)

Q 刑罰法規の定める犯罪構成要件があいまい不明確の故に憲法 31 条に違反し無効であるか否かは、どのような基準で決定すべきか。

A: 通常の判断能力を有する一般人の理解を基準とすべきである。およそ、刑罰法規の定める犯罪構成要件があいまい不明確の故に憲法 31 条に違反し無効であるとされるのは、その規定が通常の判断能力を有する一般人に対して、禁止される行為とそうでない行為とを識別するための基準を示すところがなく、そのため、その適用を受ける国民に対して刑罰の対象となる行為をあらかじめ告知する機能を果たさず、また、その運用がこれを適用する国または地方公共団体の機関の主観的判断に委ねられて恣意に流れる等、重大な弊害を生ずるからである。それ故、ある刑罰法規があいまい不明確の故に憲法 31 条に違反するものと認めるべきかどうかは、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによってこれを決定すべきであるく徳島市公安条例事件-(最大判昭 50·9·10)。

Q 表現の自由を規制する立法内容が明確であるか否かは、一定の専門的判断能力を有する規制当局の理解を基準とすべきか。

A: :通常の判断能力を有する一般人の理解を基準とすべきであるく徳島市公安条例事件-(最大判昭 50·9·10)。

Q 公安条例において、集団行動に関する遵守事項として、単に「交通秩序を維持すること」と規定することは、その文言があいまい不明確であるため、憲法 31 条に違反し無効となるのか。

A: :憲法 31 条に違反し無効とならない。公安条例において、「交通秩序を維持すること」と規定している条項は、道路における集団行進等が一般的に秩序正しく平穏に行われる場合にこれに随伴する交通秩序阻害の程度を超えた、ことさらな交通秩序の阻害をもたらすような行為を避止すべきことを命じている。そして、通常の判断能力を有する一般人が、具体的場合において、自己がしようとする行為が当該条項による禁止に触れるものであるかどうかを判断するにあたっては、その行為が秩序正しく平穏に行われる集団行進等に伴う交通秩序の阻害を生ずるにとどまるものか、あるいはことさらな交通秩序の阻害をもたらすようなものであるかを考えることにより、通常その判断にさほどの困難を感じることはないはずである。このようにみてくると、当該条項は、たしかにその文言が抽象的であるとのそしりを免れないとはいえ、集団行進等における道路交通の秩序遵守についての基準を読みとることが可能であり、犯罪構成要件の内容をなすものとして明確性を欠き憲法 31 条に違反するとはいえないく徳島市公安条例事件-(最大判昭 50·9·10)。

Q 表現の自由を規制する法律の規定につき、いわゆる合憲的限定解釈が許される場合があるか。

A: :合憲的限定解釈が許される場合がある。表現の自由を規制する法律の規定について限定解釈をすることが許されるのは、その解釈により、規制の対象となるものとそうでないものとが明確に区別され、かつ、合憲的に規制しうるもののみが規制の対象となることが明らかにされる場合でなければならず、また、一般国民の理解において、具体的場合に当該表現物が規制の対象となるかどうかの判断を可能ならしめるような基準をその規定から読みとることができなければならないく税関検査事件-(最大判昭 59·12·12)。

Q 関税定率法 21 条 1 項 3 号にいう「風俗」とは、わいせつな書籍、図画等に限られるのか。

A: :わいせつな書籍、図画等に限られる。関税定率法 21 条 1 項 3 号にいう「公安又は風俗を害すべき」とする文言は、可分な 2 種の規定と解され、本件においては「風俗」に関する部分について考究する。ここに合理的に解釈すれば、「風俗」とは、もっぱら性的風俗を意味し、当該規定により輸入禁止の対象とされるのはわいせつな書籍、図画等に限られるものということができ、このような限定的な解釈が可能である以上、当該規定は、何ら明確性に欠けるものではなく、憲法 21 条 1 項の規定に反しないく税関検査事件-(最大判昭 59·12·12)。

Q 新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法 2 条が「暴力主義的破壊活動を行い、又は行うおそれがあると認められる者」と規定する要件は、不明確なものか。

A: 不明確なものではない。「暴力主義的破壊活動を行い、又は行うおそれがあると認められる者」とは、他の条項と考えあわせると、「暴力主義的破壊活動を現に行っている者又はこれを行う蓋然性の高い者」と限定解釈できるので、過度に広範な規制を行うものとはいえず、その規定する要件も不明確なものとはいえないく成田新法事件-(最大判平 4·7·1)。

Q 広島市暴走族追放条例 17 条(「16 条第 1 項第 1 号の行為が、本市の管理する公共の場所において、特異な服装をし、顔面の全部若しくはー部を覆い隠し、円陣を組み、又は旗を立てる等威勢を示すことにより行われたときは、市長は、当該行為者に対し、当該行為の中止又は当該場所からの退去を命ずることができる。」)等の規定は、憲法 21 条 1 項および 31 条に違反するのか。

A: :憲法 21 条 1 項および 31 条に違反しない。本条例の目的規定である 1 条は、「暴走行為、い集、集会及び祭礼等における示威行為が、市民生活や少年の健全育成に多大な影響を及ぼしているのみならず、国際平和文化都市の印象を著しく傷つけている」存在としての「暴走族」を本条例が規定する諸対策の対象として想定するものと解され、本条例 5 条、6 条も、少年が加入する対象としての「暴走族」を想定しているほか、本条例には、暴走行為自体の抑止を眼目としている規定も数多く含まれている。このような本条例の全体から読み取ることができる趣旨、さらには本条例施行規則の規定等を総合すれば、本条例が規制の対象としている「暴走族」は、本条例 2 条 7 号の定義にもかかわらず、暴走行為を目的として結成された集団である本来的な意味における暴走族の外には、服装、旗、言動などにおいてこのような暴走族に類似し社会通念上これと同視することができる集団に限られるものと解され、したがって、市長において本条例による中止·退去命令を発しうる対象も、被告人に適用されている「集会」との関係では、本来的な意味における暴走族および上記のようなその類似集団による集会が、本条例 16 条 1 項 1 号、17 条所定の場所および態様で行われている場合に限定されると解される。そして、このように限定的に解釈すれば、本条例 16 条 1 項 1 号、17 条、19 条の規定による規制は、広島市内の公共の場所における暴走族による集会等が公衆の平穏を害してきたこと、規制に係る集会であっても、これを行うことを直ちに犯罪として処罰するのではなく、市長による中止命令等の対象とするにとどめ、この命令に違反した場合に初めて処罰すべきものとするという事後的かつ段階的規制によっていること等にかんがみると、その弊害を防止しようとする規制目的の正当性、弊害防止手段としての合理性、この規制により得られる利益と失われる利益との均衡の観点に照らし、未だ憲法 21 条 1 項、31 条に違反するとまではいえない(最判平 19·9·18)。

Q わが国においてすでに頒布され、販売されているわいせつ表現物を関税定率法(改正前のもの)21 条 1 項 4 号による輸入規制の対象とすることは、憲法 21 条に反しないのか。また、輸入しようとした写真集が、関税定率法 21 条 1 項 4 号にいう「風俗を害すべき書籍、図画」等に該当するのか。

A: 憲法 21 条に反しない。また、「風俗を害すべき書籍、図画」等に該当しない。関税定率法 21 条 1 項 4 号に掲げる貨物に関する税関検査が憲法 21 条 2 項前段にいう「検閲」にあたらないこと、税関検査によるわいせつ表現物の輸入規制が同条 1 項の規定に違反しないこと、関税定率法 21 条 1 項 4 号にいう「風俗を害すべき書籍、図画」等とは、わいせつな書籍、図画等を指すものと解すべきであり、上記規定が広はん又は不明確のゆえに違憲無効といえないことは、当裁判所の判例(最大判昭 59·12·12)とするところであり、わが国においてすでに頒布され、販売されているわいせつ表現物を税関検査による輸入規制の対象とすることが憲法 21 条 1 項の規定に違反するものではないことも、上記大法廷判決の趣旨に徴して明らかであるくメイプルソープ事件-(最判平 20·2·19)。

公務員の政治活動(1)–合理的関連性の基準

Q 公務員の政治的行為を禁止することは、憲法 21 条に違反するのか。

A: 禁止目的と禁止される行為との間に合理的関連性があれば、憲法 21 条に違反しない。行政の中立的運営が確保され、これに対する国民の信頼が維持されることは、憲法の要請にかなうものであり、公務員の政治的中立性が維持されることは、国民全体の重要な利益にほかならない。したがって、公務員の政治的中立性を損うおそれのある公務員の政治的行為を禁止することは、それが合理的で必要やむをえない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところである。国家公務員法 102 条 1 項および人事院規則による公務員に対する政治的行為の禁止が上記の合理的で必要やむをえない限度にとどまるものか否かを判断するにあたっては、禁止の目的、この目的と禁止される政治的行為との関連性、政治的行為を禁止することにより得られる利益と禁止することにより失われる利益との均衡の 3 点から検討することが必要である。そこで、まず、禁止の目的およびこの目的と禁止される行為との関連性について考えると、もし公務員の政治的行為のすべてが自由に放任されるときは、おのずから公務員の政治的中立性が損われ、その職務の遂行ひいてはその属する行政機関の公務の運営に党派的偏向を招くおそれがあり、行政の中立的運営に対する国民の信頼が損われることを免れない。したがって、このような弊害の発生を防止するため、公務員の政治的中立性を損うおそれがあると認められる政治的行為を禁止することは、禁止目的との間に合理的な関連性があるものと認められる。次に、利益の均衡の点について考えてみると、公務員の政治的中立性を損うおそれのある行動類型に属する政治的行為を、これに内包される意見表明そのものの制約をねらいとしてではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するときは、同時にそれにより意見表明の自由が制約されることにはなるが、それは、たんに行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎず、かつ、国家公務員法 102 条 1 項および人事院規則の定める行動類型以外の行為により意見を表明する自由までをも制約するものではなく、他面、禁止により得られる利益は、公務員の政治的中立性を維持し、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保するという国民全体の共同利益なのであるから、得られる利益は、失われる利益に比してさらに重要なものというべきであり、その禁止は利益の均衡を失するものではない。したがって、国家公務員法 102 条 1 項および人事院規則 14-7 の 5 項 3 号、6 項 13 号は、合理的で必要やむをえない限度を超えるものとは認められず、憲法 21 条に違反しないく猿払事件-(最大判昭 49·11·6)。

Q 機械的労務に携わる現業の国家公務員が、勤務時間外に国の施設を利用せず、職務を利用することなく行った行為についてまで法律で刑事罰を適用することは違憲となるのか。

A: :違憲とならない-猿払事件-(最大判昭 49·11·6)。

Q 裁判官の言動が裁判所法 52 条 1 号所定の「積極的に政治運動をすること」に該当する場合、これを禁止することは、憲法 21 条 1 項に違反するのか。

A: 禁止目的と禁止される行為との間に合理的関連性があれば、憲法 21 条 1 項に違反しない。裁判官に対し「積極的に政治運動をすること」を禁止する立法目的は、裁判官の独立および中立·公正を確保し、裁判に対する国民の信頼を維持するとともに、三権分立主義の下における司法と立法、行政とのあるべき関係を規律することにあり、この立法目的は、もとより正当である。また、裁判官が積極的に政治運動をすることは、裁判官の独立および中立·公正を害し、裁判に対する国民の信頼を損なうおそれが大きいから、積極的に政治運動をすることを禁止することと上記禁止目的との間に合理的な関連性があることは明らかである。さらに、裁判官が積極的に政治運動をすることを、これに内包される意見表明そのものの制約をねらいとしてではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するときは、同時にそれにより意見表明の自由が制約されることにはなるが、それはたんに行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎず、かつ、積極的に政治運動をすること以外の行為により意見を表明する自由までをも制約するものではない。他面、禁止により得られる利益は、裁判官の独立および中立·公正を確保し、裁判に対する国民の信頼を維持するものであるから、得られる利益は失われる利益に比してさらに重要であり、その禁止は利益の均衡を失するものではない。そして、「積極的に政治運動をすること」という文言が文面上不明確であるともいえない。したがって、裁判官が「積極的に政治運動をすること」を禁止することは、もとより憲法 21 条 1 項に違反するものではないく寺西裁判官懲戒処分事件-(最大決平 10·12·1)。

Q 裁判官も、個人的意見の表明であれば、積極的に政治運動をすることも許容されるのか。

A: :許容されないく寺西裁判官懲戒処分事件-(最大決平 10·12·1)。→-73

Q 戸別訪問を一律に禁止することは、表現の自由の侵害にならないのか。

A: 禁止目的と禁止される行為との間に合理的関連性があれば、表現の自由の侵害にならない。戸別訪問の禁止は、意見表明そのものの制約を目的とするものではなく、意見表明の手段方法のもたらす弊害、すなわち、買収、利害誘導等の温床、選挙人の生活の平穏を害し、多額の出費などを防止し、もって選挙の自由と公平を確保することを目的としている。そして、この目的は正当であり、それらの弊害を総体としてみるときには、戸別訪問を一律に禁止することと禁止目的との間に合理的な関連性がある。さらに戸別訪問の禁止によって得られる利益は失われる利益に比してはるかに大きい。したがって、公職選挙法 138 条 1 項は、合理的で必要やむをえない限度を超えるものとは認められず、憲法 21 条に違反せず戸別訪問を一律に禁止するかどうかは、もっぱら選挙の自由と公正を確保する見地からする立法政策の問題である-戸別訪問禁止規定事件-(最判昭 56·6·15)。

公務員の政治活動(2)––その他

Q 厚生労働省大臣官房統計情報部社会統計課長補佐であった被告人が、郵便受けに文書を配布する行為を罰する国家公務員道路法第11条0 条 1 項 19 号(改正前)、102 条 1 項、人事院規則 14-7(政治的行為)6 項 7 号の各規定は、憲法 21 条 1 項、31 条に違反するのか。

A: 憲法 21 条 1 項、31 条に違反しない。被告人は、厚生労働省大臣官房統計情報部社会統計課長補佐であり、指揮命令や指導監督等を通じて他の多数の職員の職務の遂行に影響を及ぼすことのできる地位にあったといえる。このような地位および職務の内容や権限を担っていた被告人が政党機関紙の配布という特定の政党を積極的に支援する行動を行うことについては、それが勤務外のものであったとしても、国民全体の奉仕者として政治的に中立な姿勢を特に堅持すべき立場にある管理職的地位の公務員がことさらにこのような一定の政治的傾向を顕著に示す行動に出ているのであるから、当該公務員による裁量権を伴う職務権限の行使の過程のさまざまな場面でその政治的傾向が職務内容に現れる蓋然性が高まり、その指揮命令や指導監督を通じてその部下等の職務の遂行や組織の運営にもその傾向に沿った影響を及ぼすことになりかねない。したがって、これらによって、当該公務員およびその属する行政組織の職務の遂行の政治的中立性が損なわれるおそれが実質的に生ずるものということができる。そうすると、本件配布行為が、勤務時間外である休日に、国ないし職場の施設を利用せずに、それ自体は公務員としての地位を利用することなく行われたものであること、公務員により組織される団体の活動としての性格を有しないこと、公務員であることを明らかにすることなく、無言で郵便受けに文書を配布したにとどまるものであって、公務員による行為と認識しうる態様ではなかったことなどの事情を考慮しても、本件配布行為には、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められ、本件配布行為は本件罰則規定の構成要件に該当するというべきである。そして、このように公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる本件配布行為に本件罰則規定を適用することが憲法 21 条 1 項、31 条に違反しないことは、明らかである-堀越事件-(最判平 24·12·7)。

Q 社会保険事務所に年金審査官として勤務する事務官であった公務員が、郵便受けに文書を配布する行為を罰する国家公務員道路法第11条0 条 1 項 19 号(改正前)、102 条 1 項、人事院規則 14-7(政治的行為)6 項 7 号の各規定は、憲法 21 条 1 項、31 条に違反するのか。

A: 当該公務員の行為は、罰則規定の解釈上その構成要件に該当せずその適用がないため、憲法 21 条 1 項、31 条違反の問題は生じない。被告人は、社会保険事務所に年金審査官として勤務する事務官であり、本件配布行為は、管理職的地位になく、その職務の内容や権限に裁量の余地のない公務員によって、職務と全く無関係に、公務員により組織される団体の活動としての性格もなく行われたものであり、公務員による行為と認識しうる態様で行われたものでもないから、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものとはいえない。そうすると、本件配布行為は本件罰則規定の構成要件に該当しないというべきである。以上のとおりであり、被告人を無罪とした原判決は結論において相当である。なお、原判決は、本件罰則規定を被告人に適用することが憲法 21 条 1 項、31 条に違反するとしているが、そもそも本件配布行為は本件罰則規定の解釈上その構成要件に該当しないためその適用がないと解すべきであるく堀越事件-(最判平 24·12·7)。事前の選挙運動の禁止

Q 選挙運動を行う期間を制限し、一切の事前運動を禁止することは、表現の自由に対する必要かつ合理的な制限を超えているのか。

A: :必要かつ合理的な制限を超えていない。公職の選挙につき、常時選挙運動を行うことを許容するときは、その間、不当、無用な競争を招き、これが規制困難による不正行為の発生等により選挙の公正を害するに至るおそれがあるのみならず、徒らに経費や労力がかさみ、経済力の差による不公平が生ずる結果となり、ひいては選挙の腐敗をも招来するおそれがある。このような弊害を防止して、選挙の公正を確保するためには、選挙運動の期間を長期にわたらない相当の期間に限定し、かつ、その始期を一定して、各候補者ができるだけ同一の条件の下に選挙運動に従事しうる必要がある。選挙が公正に行われることを保障することは、公共の福祉を維持することであるから、選挙運動をすることができる期間を規制し事前運動を禁止することは、憲法の保障する表現の自由に対し許された必要かつ合理的な制限である(最大判昭 44·4·23)。 国 Ⅰ-平成 16、国 Ⅱ-平成 23

(7)集会の自由

Q 皇居外苑のメーデーのための使用申請に対する不許可処分が、表現の自由又は団体行動権を制限することを目的としたものでなければ、憲法 21 条および 28 条に違反しないのか。

A: :憲法 21 条および 28 条に違反しない。皇居外苑のメーデーのための使用申請に対する不許可処分は、管理権の適正な運用を誤ったものとは認められないし、また、管理権に名をかりて実質上表現の自由又は団体行動権を制限することを目的としたものとも認められないのであって、そうである限り、これによって、たとえ皇居前広場が本件集会および示威行進に使用することができなくなったとしても、本件不許可処分が憲法 21 条および 28 条違反であるということはできないく皇居外苑使用不許可事件-(最大判昭 28·12·23)。 裁判所総合·一般-平成 29

Q 集会の自由は、民主主義社会における重要な基本的人権の一つとして特に尊重されなければならないのか。

A: 特に尊重されなければならない。現代民主主義社会においては、集会は、国民がさまざまな意見や情報等に接することにより自己の思想や人格を形成、発展させ、また、相互に意見や情報等を伝達、交流する場として必要であり、さらに、対外的に意見を表明するための有効な手段であるから、憲法 21 条 1 項の保障する集会の自由は、民主主義社会における重要な基本的人権の一つとして特に尊重されなければならないものである。しかしながら、集会の自由といえどもあらゆる場合に無制限に保障されなければならないものではなく、公共の福祉による必要かつ合理的な制限を受けることがあるのはいうまでもない。そして、このような自由に対する制限が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは、制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容および性質。これに加えられる具体的制限の態様および程度等を較量して決めるのが相当である(最大判昭 58·6·22 参照)-成田新法事件-(最大判平 4·7·1)。

Q 集会が会館で行われれば、危険な事態が発生する蓋然性があることを、市が主観的に予測できれば、会館使用を不許可とすることは許されるのか。

A: :市が主観的に予測しただけでは不許可とすることは許されない。本件市の市民会館条例 7 条 1 号は、「公の秩序をみだすおそれがある場合」を会館の使用を許可してはならない事由として規定しているが、同号は、広義の表現をとっているとはいえ、会館における集会の自由を保障することの重要性よりも、会館で集会が開かれることによって、人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し、防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべきであり、その危険性の程度としては、単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要である。そして、会館使用を不許可とできるのは、そのような事態の発生が許可権者の主観により予測されるだけではなく、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合でなければならない。したがって、会館の職員、通行人、付近住民等の生命、身体又は財産が侵害される事態を生ずることが客観的事実によって具体的に明らかに予見されたという事情の下においては、会館の使用不許可処分は、憲法 21 条、地方自治法 242 条に違反しないく泉佐野市市民会館事件-(最判平 7·3·7)。

Q 処分当時、集会の実質上の主催者と目されるグループが、関西新空港の建設に反対して違法な実力行使を繰り返し、対立する他のグループと暴力による抗争を続けてきており、集会が会館で開かれたならば、会館内又はその付近の路上等においてグループ間で暴力の行使を伴う衝突が起こるなどの事態が生じ、その結果、会館の職員、通行人、付近住民等の生命、身体又は財産が侵害される事態を生ずることが客観的事実によって具体的に明らかに予見されたという事情の下において、不許可とした処分は、憲法 21 条、地方自治法 242 条に違反するのか。

A: :憲法 21 条、地方自治法 242 条に違反しないく泉佐野市市民会館事件-(最判平 7·3·7)。

Q 公共施設の管理者は、当該施設の種類、規模等に応じ、公共施設としての使命を十分達成せしめるよう適切にその管理権を行使する責任を負っており、個別の利用の可否の判断はその管理者の完全な自由裁量に属するのか。

A: :その管理者の完全な自由裁量に属しないく泉佐野市市民会館事件-(最判平 7·3·7)。

Q 労働組合の連合体が幹部を追悼するための合同葬を行うために市の福祉会館の使用許可を申請したのに対し、市が「会館の管理上支障がある」ことを理由に当該施設の利用を拒否することは許されるか。

A: :当該施設の利用を拒否することは許されない。管理者が正当な理由もないのにその利用を拒否することは、憲法の保障する集会の自由の不当な制限につながるおそれがある。そして、「会館の管理上支障があると認められるとき」には、会館の使用を許可しないとする規定(本件条例 6 条 1 項 1 号)は、会館の管理上支障が生じるとの事態が、許可権者の主観により予測されるだけでなく、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合にはじめて、会館の使用を許可しないことを定めたものと解すべきである。したがって、本件においては、「会館の管理上支障がある」との事態が生ずることが、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測されたものということはできず、本件不許可処分は本件条例の解釈適用を誤った違法なものであるく上尾市福祉会館事件-(最判平 8·3·15)。

Q 教育研究集会のための学校施設の使用許可申請に対して、市教育委員会が、県教委等の教育委員会と教職員組合との緊張関係と対立の激化を背景として、過去の右翼団体の妨害行動を例に挙げ、不許可処分とすることは、適法な処分か。

A: :市教育委員会の裁量権の範囲を逸脱し、違法な処分である。本件学校施設の使用不許可処分の時点で、本件集会について右翼団体による具体的な妨害の動きがあったことは認められず、本件集会の予定された日は、休校日である土曜日と日曜日であり、生徒の登校は予定されていなかったことからすると、仮に妨害行動がされても、生徒に対する影響は間接的なものにとどまる可能性が高かったということができる。また、本件不許可処分は、校長が、職員会議を開いたうえ、支障がないとして、いったんは口頭で使用を許可する意思を表示した後に、右翼団体による妨害行動のおそれが具体的なものではなかったにもかかわらず、市教委が、過去の右翼団体の妨害行動を例に挙げて使用させない方向に指導し、自らも不許可処分をするに至ったというものであり、しかも、その処分は、県教委等の教育委員会と被上告人(教職員組合)との緊張関係と対立の激化を背景として行われたものであった。上記の諸点その他の前記事実関係等を考慮すると、本件中学校およびその周辺の学校や地域に混乱を招き、児童生徒に教育上悪影響を与え、学校教育に支障を来すことが予想されるとの理由で行われた本件不許可処分は、重視すべきでない考慮要素を重視するなど、考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠いており、他方、当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず、その結果、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものということができる。そうすると、本件不許可処分は裁量権を逸脱したものである(最判平 18·2·7)。

(8)集団行動の自由(動く集会)

Q 行列行進又は公衆の集団示威運動を条例で合理的かつ明確な基準の下に、あらかじめ許可を受けさせることは、憲法に違反するのか。

A: 憲法に違反しない。行列行進又は公衆の集団示威運動は、本来国民の自由であるから、条例でこれらの行動につき単なる届出制を定めることは格別、一般的な許可制を定めてこれを事前に抑制することは、憲法の趣旨に反して許されない。しかし、これらの行動といえども公共の秩序を保持し、又は公共の秩序が著しく侵されることを防止するため、特定の場所または方法につき、合理的かつ明確な基準の下に、あらかじめ許可を受けさせ、又は届出をさせてこのような場合にはこれを禁止することができる旨の規定を条例に設けても、これにより直ちに憲法の保障する国民の自由を不当に制限するものではない。さらにまた、公共の安全に対し明らかにさし迫った危険を及ぼすことが予見されるときは、これを許可せず又は禁止することができる旨の規定を設けることも、直ちに憲法の保障する国民の自由を不当に制限することにはならないく新潟県公安条例事件-(最大判昭 29·11·24)。

Q 集団行動による思想等の表現の自由を公安条例により事前に規制することは、憲法 21 条に反しないか。

A: 憲法 21 条に反しない。集団行動による思想等の表現は、単なる言論、出版等によるものとは異なって、現在する多数人の集合体自体の力、つまり潜在する一種の物理的力によって支持されていることを特徴とする。かような潜在的な力は、あるいは予定された計画に従い、あるいは突発的に内外からの刺激、せん動等によってきわめて容易に動員されうる性質のものである。この場合に平穏静粛な集団であっても、時に昂奮、激昂の渦中に巻きこまれ、はなはだしい場合には一瞬にして暴徒と化し、勢いの赴くところ実力によって法と秩序を蹂躙し、集団行動の指揮者はもちろん警察力をもってしてもいかんともしえないような事態に発展する危険が存在すること、群集心理の法則と現実の経験に徴して明らかである。したがって地方公共団体が、純粋な意味における表現といえる出版等についての事前規制である検閲が憲法 21 条 2 項によって禁止されているにかかわらず、集団行動による表現の自由に関する限り、いわゆる「公安条例」をもって、地方的情況その他諸般の事情を十分考慮に入れ、不測の事態に備え、法と秩序を維持するに必要かつ最小限度の措置を事前に講ずることは、やむをえないく東京都公安条例事件-(最大判昭 35·7·20)。

Q 道路を使用して集団行進をしようとする者に対し、条例によりあらかじめ所轄警察署長の許可を受けさせることは、違憲とならないのか。

A: :違憲とならない。いかなる程度の措置が必要かつ最小限度のものとして是認できるかについては、公安条例の定める集団行動に関して要求される条件が「許可」を得ること又は「届出」をすることのいずれかの概念ないし用語のみによって判断すべきではない。またこの判断にあっては条例の立法技術上の欠陥にも拘泥してはならない。条例全体の精神を実質的かつ有機的に考察しなければならない。そこで、本条例を検討すると、許可が義務づけられており、不許可の場合が厳格に制限されている。したがって本条例は規定の文面上では許可制を採用しているが、この許可制はその実質において届出制と異ならない。集団行動の条件が許可であれ届出であれ、要はそれによって表現の自由が不当に制限されることにならなければ差し支えないく東京都公安条例事件-(最大判昭 35·7·20)。

Q デモ行進により道路の機能を著しく害するなどの事情が認められる場合に、事前に許可を要するとする道路交通法は憲法 21 条に違反しないか。

A: 憲法 21 条に違反しない。道路交通道路法第77条 条 2 項の規定は、道路使用の許可に関する明確かつ合理的な基準を掲げて道路における集団行進が不許可とされる場合を厳格に制限しており、これによれば、道路における集団行進に対し同条 1 項の規定による許可が与えられない場合は、当該集団行進の予想される規模、態様、コース、時刻などに照らし、これが行われることにより一般交通の用に供せられるべき道路の機能を著しく害するものと認められ、しかも同条 3 項の規定に基づき警察署長が条件を付与することによっても、かかる事態の発生を阻止することができないと予測される場合に限られることになる。したがって、道路における集団行進を規制する道路交通法等の各規定は、表現の自由に対する公共の福祉による必要かつ合理的な制限として憲法上是認される(最判昭 57·11·16)。

(9)結社の自由

Q 政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素であり、同時に、国民の政治意思を形成する最も有力な媒体であるのか。

A: :そのとおりである。憲法は政党について規定するところがなく、これに特別の地位を与えてはいないのであるが、憲法の定める議会制民主主義は政党を無視しては到底その円滑な運用を期待することはできないのであるから、憲法は、政党の存在を当然に予定しているものというべきであり、政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素なのである。そして同時に、政党は国民の政治意思を形成する最も有力な媒体であるから、政党のあり方いかんは、国民としての重大な関心事でなければならない。したがって、その健全な発展に協力することは、会社に対しても、社会的実在としての当然の行為として期待されるところであり、協力の一態様として政治資金の寄附についても例外ではないのであるく八幡製鉄事件-(最大判昭 45·6·24)。

(10)通信の秘密

Q 電話傍受は、通信の秘密を侵害し許されないのか。

A: 厳格な要件のもとに例外として許される。電話傍受は、通信の秘密を侵害し、ひいては、個人のプライバシーを侵害する強制処分であるが、(1)重大な犯罪に係る被疑事件について、(2)被疑者が罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があり、(3)かつ、当該電話により被疑事実に関連する通話の行われる蓋然性があるとともに、(4)電話傍受以外の方法によってはその罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが著しく困難であるなどの事情が存する場合において、電話傍受により侵害される利益の内容、程度を慎重に考慮したうえで、なお電話傍受を行うことが犯罪の捜査上真にやむをえないと認められるときには、法律の定める手続に従ってこれを行うことも憲法上許されると解する(最判平 11·12·16)。